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「高齢出産は例外」とされた時代は、過去のものになりつつある。アメリカをはじめ、世界各国で出産のタイミングが多様化している今、母になる年齢の選択肢は静かに広がりつつある。
2023年の米国の出産統計に大きな変化が見られた。40歳以上の女性による出産件数が、10代のそれを上回ったのである(CDC, 2023)。かつては「高齢出産=例外」だったこの年齢層も、出産する女性たちの一つの層として存在感を示しはじめている。背景には、若年層の出生率低下──1990年比で14%減(同上)──がある一方で、医療技術の発展やライフスタイルの多様化が、「いつ、どうやって子どもを持つか」という問いに対して、新たな選択肢を提示している。

この変化はアメリカだけに限らない。OECD加盟国の中には、第一子の平均出産年齢が30歳を超える国も増えており、韓国が32.6歳と最も高く、イタリア、日本もそれに続く高水準となっている(OECD SF2.3, 2023)。30代で母になることが、特定の国々では新しい常態として広がりつつある。いま、グローバルに起きているのは、単なる年齢の上昇ではない──女性の人生設計そのものの再構築だ。

だが、この自由には代償もある。40歳を超えた妊娠では、染色体異常や妊娠高血圧症などのリスクが高まるとされ、自然妊娠の確率も年齢とともに低下する。医療技術がそれをカバーする一方で、制度の不備が足かせとなる。たとえば日本では2022年から不妊治療の保険適用が進むが、アメリカでは州ごとにアクセス格差が大きく、治療費用の壁が依然として高い。子どもを持つ「タイミング」を自由に決められる社会には、それを支える制度と文化のアップデートが不可欠だ。
出産年齢が変われば、家族のかたちも変わる。キャリアを重ねた末の出産、パートナーとの関係性の成熟、あるいは一人で子どもを育てるという選択──いずれも「ありうる未来」として語られるようになってきている。40代での妊娠・出産が話題になることすらなくなる日、私たちは“母になる”という体験を、もっと自由で多様なものとして語れるようになるかもしれない。